第41回背黒文宏さん(和光稲門会)
ワセダ、ギター、ロックンロール

早稲田祭でギターを弾く筆者(1987年)
「じゃあ、『レモンティー』やろうぜ。ワン、トゥ、スリー、フォーッ!」
耳をつんざくエレキギター。叫ぶヴォーカル。ドラムスは今日も走り気味だが、気にしない。大学近くの狭いスタジオでの、いつものバンド練習。轟音をかき鳴らし、シャウトしたあとのビールは最高だ。
練習が終われば一人暮らしのメンバーのアパートに転がりこみ、今のロックはなんたらかんたら、社会はどうたらこうたら…と夜通し語りあった。練習のない日は、授業ではなく朝からバイト。額に汗してスタジオ代や機材購入費を稼いだ。
いつもの教室がライブハウスと化した早稲田祭。バンドを掛け持ちして、ギターを弾きまくった。冒頭の『レモンティー』は、日本を代表するロックバンド「シーナ&ロケッツ」の名曲。早稲田祭で演奏したメンバーを引き連れて、かつてはストリップ小屋だった新宿の老舗ライブハウスでも何度か演奏した。ミラーボールがギラギラ回転する狭いステージで弾いたギターソロ。情景はいまも鮮明によみがえる。
とにかくギターだのロックだの、大学時代はそんなことばかりに夢中で、しかし一方では、大江健三郎や高橋和巳、三木清などを愛読する(自称)文学青年でもあった。1年生のとき、一般教養で「日本文学」を選択し、もちろん勉強などまったくせず学期末試験に臨み、どうにでもなれと支離滅裂な青臭い文学論を答案用紙いっぱいに書きなぐったら、「優」だった。
まだキャンパスに立て看が林立していた当時、かつての熱量はないが完全に潰えてはいない学生運動の残り香を感じながら、口角泡を飛ばして天下国家を論じあったことも。そんな学生時代をふり返るたび、名曲『いちご白書をもう一度』を、苦い気持ちとともに口ずさむ。♪もう若くないさと 君に言い訳したね…
ネットもメールもスマホもなかった。だから遊ぼうと思ったら、だれかと会って話して、飲んで食べて、ときにはドライブなんかして、またあるときはあーだこーだとやりあい、とにかく豊かで、楽しい時間を過ごしたと思う。同時に、自由と平和の尊さを、心の底からかみしめる。
早稲田を卒業して35年。社会に出てからも何度かバンド活動を試みたが、継続するのは容易でない。されど、ギターはいつだって心の友だ。また、大学時代に「おれはなんのために生きているのか、人生とは?」と、自身の卑小さに苛まれながら読んだ文学書や哲学書は、現在の自分の礎となっている。
要するに、ワセダで過ごした時間が、いまの自分を支えている。これだけは確信をもって言える。楽しいときも、つらいときも、心はいつもワセダ、そしてギターとともにあった。きっとこれからもそうだろう。
いま、埼玉の中心で叫びたい。
ワセダ、ギター、ロックンロール!!!
和光稲門会副幹事長
背黒文宏/政経1990年卒(1965年生)